債務整理に関しては、バブル時代における消費者金融等からの借金対策に、2000年くらいから採用されてきた方法であり、国の方も新しい制度の制定などで力となりました。
「個人再生」はその中の1つになるわけです。
「個人再生」とは個人版民事再生手続のことであり、裁判所を介して実施されるのが基本です。加えて、「個人再生」には「給与所得者等再生」と「小規模個人再生」という異なる整理方法があります。
束京地方裁判所においては、「個人再生」事件について, 他の裁判所とは異なる運用を行っている部分があります。
本稿では,この東京地方裁判所における「個人再生」事件の運用の特徴について,ご説明いたします。
東京地方裁判所における個人再生事件の状況
東京地方裁判所は、現在、日本全国で最も規模の大きい地方裁判所です。
管轄は東京都内ということで、その人口もやはり日本最大となっています。そのため、「個人再生」 の 事件数も他の裁判所と比べて圧倒的に多くなっています。事件数が圧倒的に多いということは、その分、他の裁判所よりも多くの「個 人再生」事件処理の実績と先例を積んでいる、ということにもなります。
また、その膨大な数の事件を処理していくために、束京地方裁判所は他の裁判所よりも充実した人的・物的リソース(資源)を整えています。
これら多くの実績や大規模の人的・物的賽源を有していることから,束京地方裁判所においては、「個人再生事件」について他の裁判所にはない特徴的な手続運用をとっています。それでは、東京地方裁判所における「個人再生事件」の特徴的な手続きについてみていきましょう。
弁護士代理人申立ての原則
「個人再生」の申立ては言うまでもなく、弁護士に依頼せずとも申立者(債務者)だけで行うことができるのが原則です。そうは言っても「個人再生」の手続は若干、複雑な面があり,申立者(債務者)自身が手続を主体的に進めて行かなければならないことや不正な制度利用等を防止する見地から、束京地方裁判所では「弁護士代理人による申立てを原則」としています。
東京地方裁判所では、「弁護士代理人による中立ての原則」と後述の「個人再生委員の全件選任」とが互いに作用することで、「個人再生手続」について「適正化」と「大幅な簡素化・迅速化」の両方を実現しているといわれています。
個人再生委員の全件選任
裁判所は、個々の「個人再生事件」を指導・監督させることを目的として、「個人再生委員」を選任することができます。
ただし、あくまでも「選任することができる」ということですから、選任するかしないかについては、個々の事件ごとに裁判所が決めることができることになっています。また、選任する「個人再生委員」がどのような職務を担当するのかについても,裁判所が決 めることになります。
もっとも、その「立ち位置」は客観的な立場にあり,専門的知識を有する「個人再生委員」 が申立者(債務者)を「指導・監督」した方が,手続きを適正・円滑に進めることができますし、裁判所の負担を軽減できることは言うまでもないことです。
そのような背景・事情から、東京地方裁判所では個人再生事件の全件について、「必ず個人再生委員を選任する」という運用になっています。
また、「個人再生委員」の選任にあたっては、以下の3つの職務のうちの1つまたは2つ以上の職務を指定して選任することができるとされています。
- 中立者(債務者)の財産状況の調査
- 再生債権の評価における裁判所の補助
- 再生計画案作成に関する申立者(債務者)への勧告
東京地方裁判所の場合には,上の3つの職務の全部を指定して選任するものとしています。したがって、東京地方裁判所の個人再生事件では、全件について「個人再生手続」の全般に渡って申立者(債務者)は「個人再生委員」の指導・監督を受けることになります。
なお、「個人再牛委員」に選任されるのは、管轄内の法律事務所所属の弁護士です。また, 個人再牛委員報酬は15万円とされています。
履行可能性テストの実施
「個人再生」は裁判所によって認可された再生計画に基づき、申立者(債務者)が返済をしていく手続きですから, 再生計画を認可するに当たっては,申立者(債務者)がそれ以降も 返済を続けていくだけの資力や収入があるのかということが、最も重要なボイントになってきます。
その点に鑑みて束京地方裁判所では、「履行可能性テスト(トレーニング期間)」を行っています。これは、「再生計画」に基づき、履行していくことになると予想される弁済金額と同額程度の金銭を「個人再生」の申立て後に「個人再生委員」に対して6か月にわたって、毎月支払っていくという手続きです。
「個人再生委員」に対して6か月間の支払いを継続できるのであれば、「再生計画認可決定」後も、その金額を債権者に支払っていく可能性が高いと判断できますが、もし支払いができないのであれば、「再生計画」を履行できる可能性が低いと言えます。
つまり、「履行可能性 テスト」をパスできるかどうかという点が、裁判所による「再生計画」の認可・不認可の判断において参考とされる、 というわけです。
「再生計画」の認可・不認可の判断において参考とされる」と書きはしましたが、実際には 「履行可能性テスト」に失敗した場合は、 特別の事情がない限りは、「再生計画」は不認可 となると考えておいた方が良いでしょう。
標準スケジュールの公開
「個人再生」の手続きにおいては,「申立て」から「認可」までの間に、さまざまな手続が行われます。加えて東京地方裁判所の場合には「履行可能性テスト」なども行われます。
そこで、手続きの「予測可能性・透明性」を高め、申立者(債務者)が計画的に作業を進めることができるように. 束京地方裁判所では,概ね申立てから6か月で認可・不認可決定 に至るまで手続の標準スケジュ ールを公開しています。
基本的には、このスケジュールに沿って,個々の事件の具体的なスケジュールが決められる ことになります。
・・・以上が「東京地方裁判所における個人再生事件の運用の特徴」でした。