「個人再生」というのは民事再生手続の個人版であり、裁判所が裁定する形で行なわれることになっています。
更に言うと、個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の二つの整理方法がありますが、両者とも共通しているのが「個人再生委員」の選任です。
この「個人再生委員」は他の整理方法(「任意整理」や「自己破産」など)と異なり、「個人再生」特有のものです。個人再生の手続においては、この「個人再生委員」が重要な職務・役割を果たす場合があります。
本稿では「個人再生委員の職務・役割」について、ご紹介します。
個人再生委員の位置づけ
「自己破産」では、裁判所から選任された第三者である「破産管財人」が主導して手続きを進めていきます。
一方で「個人再生」の手続は「自己破産」とは異なり、「債務者(申立人)」が主体的に手続きを進めて行かなければならないものとなっています。
そうは言っても、法律や債務整理について素人であることが多い「申立人」が独力で「個人再生」の手続き[1]裁判所への提出書類の収集や作成、さらには「再生計画案」の作成などを進めていくのは容易ではありません。
ですので、専門家である第三者に「個人再生」の手続きについて指導・監督してもらえれば、適正で公平な手続を進めていくことができることになるのは自明ですよね。
これらのことから、裁判所は「個人再生委員」を選任することができるとされています。(民事再生法223条1項)
では、個人再生委員の職務とは何でしょうか?
こちらも「民事再生法」によって、裁判所は以下の3つの職務のうちの1つ、または2つ以上を指定することになっています。(民事再生法223条2項)
- 債務者(申立人)の財産および収入の状況の調査
- 再生債権の評価手続に関する裁判所の補助
- 債務者(申立人)による適正な「再生計画案」を作成するために必要な勧告
上述の職務から分かると思います。
「個人再生委員」は裁判所に代わって調査等を行うという裁判所の補助者としての役割を担っているだけでなく、債務者(申立人)に対する助言者としての役割も有しているといえます。
また、東京地方裁判所では、個人再生の事件すべてについて「個人再生委員」を選任することとしています。
なお、その選任基準としては上述の「個人再生委員」の職務全てを指定するという運用にしていますが、これも「個人再生委員」の役割を重視している点についての証左でもあると言えます。
では、次に「個人再生委員」の職務について手続きごとに見ていきましょう。
個人再生委員の職務(その1):再生手続の開始
「個人再生」の手続きを開始するにあたっては、法律で定められた手続開始の要件を満たしていることが必須条件となっています。
裁判所は基本的に、申立人から提出された「申立書」を審査して、開始要件を満たしているかどうかを判断しますが、その際に裁判所は「個人再生委員」を選任し、その職務として「再生債務者の財産・収入の状況」を指定して行わせることができます。
「個人再生委員」は再生債務者の財産・収入状況等を調査してそれを裁判所に報告します。
裁判所はその報告書を参考にして開始要件を満たしているかどうかを判断することになります。
ですので、「個人再生委員」の報告は、手続開始決定に大きな影響を与えることになります。
個人再生委員の職務(その2):再生債権の調査
「個人再生」の手続きにおいては再生債権の確定のために再生債権の調査が行われます。
この債権調査においては、債務者(申立者)または債権者によって再生債権の評価申立てが行われた場合、裁判所は「個人再生委員」を選任し、その職務として「再生債権の評価」に関して裁判所を補助することを指定して行わせることができます。
「個人再生委員」は債務者(申立者)や再生債権者等に対して資料提出を求めるなどして再生債権の調査を行います。
そして、その調査結果を裁判所に報告しますが、併せて「再生債権の評価」に関する意見書も裁判所に提出します。
裁判所は、この「個人再生委員」からの報告・意見をもとにして再生債権評価の決定をしますので、この点についても「個人再生委員」の役割は債務者(申立人)と債権者だけでなく、裁判所にとっても重要なものとなります。
個人再生委員の職務(その3):再生計画の認可
「個人再生」において債務者(申立人)が「再生計画案」を作成します。
裁判所は基本として、この「再生計画案」について、債権者の同意を得る、または意見を求めた上で、再生計画の認可要件を満たしているかどうかを判断しています。
裁判所は、再生計画案を適正に作成させるために個人再生委員を選任しますが、これは「個人再生委員」の職務として「再生計画案作成に関する債務者(申立人)への勧告」のを指定して行わせるものです。
裁判所から選任された「個人再生委員」は、債務者(申立人)が適正に作成できているかどうかについて「再生計画案」をチェックします。
そしてチェックの結果、訂正等の勧告・アドバイスを適宜、行います。
裁判所は「個人再生委員」の勧告等によって作成された「再生計画案」が提出されると、その「再生計画案」が適正であるかどうかを審査します。
その後、審査を経て申立人の申立が「小規模個人再生」であれば、再生計画案を再生債権者の決議に付する旨の決定(付議決定)を、「給与所得者等再生」の申立であれば届出再生債権者の意見を聴く旨の決定(付意見決定)を行います。
以上の上記債権者の決議や意見を受けたのち、「再生計画認可」の要件を判断、認可または不認可の決定を行います。
個人再生委員の職務(その4):再生計画認可決定後
「再生計画」が認可され、認可決定が確定すると「個人再生」の手続は終了となりますが、この時点で選任されていた「個人再生委員」も解任されます。
なお、「再生計画」認可決定後に、再生計画変更の申立てやハードシップ免責の申立てが行われた場合[2]多くの場合は再生債務者が再生計画に基づく弁済をできなくなったなどの事情によるものです。は、裁判所は再び「個人再生委員」を選任します。
この場合、「個人再生委員」は以下の職務を果たすことになります。
- 債務者(申立人)の財産・収入等の状況の再調査
- 変更再生計画案のチェック
- 再生計画変更の決定や免責決定が相当かどうかの意見書の提出
・・・以上が「個人再生委員の職務と役割」になります。
「個人再生」は「自己破産」と異なり、主体的に手続きを進めなければなりませんから、知識・経験が豊富な弁護士や司法書士のサポートを受けるほうがベターなのは言うまでもないと思います。
「個人再生」を視野に入れておられる方は一度、相談されることをおススメします。
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